※2019年11月追記
現在、Amzonプライムビデオで「あん」が配信されています。プライム会員の方は無料で視聴可能です。ぜひご覧ください。
※この記事は修正中です。感想を加筆しようと思っているのですがなかなか進まず……すみません。
先月になりますが、新宿武蔵野館で「あん」を観てきました。
最近はシネコンばかり行っていてミニシアター系の劇場は久しぶりだったのですが、懐かしい感じがしていいですね。
話題作ということで平日の日中にもかかわらず、かなり混雑していました。20代くらいの方から年配の方まで幅広い年齢の客層で男性の姿も多く見えました。
河瀬直美監督の作品を見るのは初めてでしたが、美しい映像が印象的です。この物語は桜の季節から始まり、ラストシーンも桜の季節ですが、実際に1年かけて撮影されたそうです。所々に自然の映像が映し出され、光や風を感じながら、物語の中に引き込まれていくようです。
樹木希林さんをはじめ役者さん達の演技が「芝居」のようには見えず、まるでドキュメンタリー作品のようで、観賞後は胸に迫るものがありました。
樹木希林さん、永瀬正敏さん、市原悦子さんなどベテラン勢が素晴らしいのは当然ですが、新人の内田伽羅さんの素人っぽさもこの作品には合っていました。まだ若くてたどたどしい感じはありますが、この存在感はやはり血筋なのでしょうか。将来が楽しみですね。
映画「あん」あらすじ
縁あってどら焼き屋「どら春」の雇われ店長として単調な日々をこなしていた千太郎(永瀬正敏)。そのお店の常連である中学生のワカナ(内田伽羅)。ある日、その店の求人募集の貼り紙をみて、そこで働くことを懇願する一人の老女、徳江(樹木希林)が現れ、どらやきの粒あん作りを任せることに。徳江の作った粒あんはあまりに美味しく、みるみるうちに店は繁盛。しかし心ない噂が、彼らの運命を大きく変えていく…
何かになれなくても、生きる意味はある
映画『あん』の中で、徳江の生き方は実にシンプルです。
花や風など自然の声を聴き、自分も自然の一部であるかのように、あるがままに生きている。
それは、社会からも必要とされず、人権さえも奪われて生きなければならなかった徳江が身につけた感性なのかもしれません。
身体は自由に出かけることすらままならない、だけど心は囲いを飛び越えて、風に乗り花を愛で月の声を聴くことができる。
映画の中で、印象的な徳江の台詞があります。
「ねぇ、店長さん
わたしたちにはこの世を見るために、聞くために生まれてきた。
だとすれば、何かになれなくてもわたしたちは
わたしたちには
生きる意味が、あるのよ」
ありのままに生きること。それはシンプルでいてとても難しいことです。
わたしたちは、誰かに必要とされたくて、愛されたくて、認められてたくて、知らず知らずのうちに欲や見栄にまみれて生きてしまっている。
成功したくて、地位や名誉がほしくて、金持ちになりたくて。
自由になるために手に入れたいと思っていたものが、逆に窮屈な囲いとなって、それに縛られて生きているのかもしれません。
「何かになれなくても、生きる意味はある」
成功しなくても、地位や名誉がなくても、金持ちになれなくても。
ただ自然の声を聞き、見て、感じるだけでいい。あるがままの人生を受け入れて自然に身を委ねると、自分を縛るものは何もなく、こんなにも自由で、本当に欲しいものはすでに持っていたのだと気づくのかもしれません。
わたしたちは、生きているだけですでに愛されている存在なのだと。そんなことをこの映画は気づかせてくれたように思います。
重いテーマの映画でしたが、ラストシーンで再び春が来て、桜の木の下で「どら焼き、いかがですか」と声を張る千太郎の姿に希望を感じられたのはよかったです。
参考 映画「あん」公式サイト
DVD/Blu-layには未公開映像収録も
樹木希林さん演じる徳江が施設に入れられた14歳の頃の少女時代を、孫の内田伽羅さんが演じました。徳江の母親お手製の白いワンピース姿などが撮影されたそうですが、残念ながら映画ではカットされました。そんなレアなシーンも含め、DVDとブルーレイのスペシャルエディションに付いている特典ディスクには数々の未公開映像が収録されているのも魅力です。